ユリちゃんだったあの頃と、今。

『ユリちゃん、場内指名いただきました~っ!!』

『ありがとーございまぁーーすっ!!!』

♪~ズンチャッズンッズンッ~…♪

――ボーイ達の低く通る声と、

体の芯から震わせるような、けたたましい音楽が

店内に響き渡る。

絶え間なく光り続ける、カラフルなミラーボール…

ああ、目眩がしそう。

そう。

ユリちゃんとは、私のこと。

十年ほど前だけど、遠い昔のように感じる…

セクキャバで “場内指名” NO.1だった。

周りには細くて若くて、可愛い子ばかり。

なのに指名を貰うのは…

体重80キロオーバー&20代半ばの

シングルマザーの私。

ボーイ達の声が響き渡るたび、待機室では

「…あの人なんか変なことしてるんじゃない?」

と、ヒソヒソされていたよう。

密告してくれる子が数人いた。

それを聞かされなくても、仕事が終わり

待機室に戻ったときの “空気感” で

《あ、私ここでは歓迎されてないな》と分かった。

…“何か”ってなんだよ、って話だけど。

二人並んで座れるぐらいの席に、小さなテーブル。

程よい高さの半透明の仕切り板がついている。

横に座ったり、お客さんの膝の上に座ったり…

「重くないですか?(笑)」と私が聞くと

『全然!大丈夫だよ』と。

意外にも優しく、慣れてないお客さんが多かった。

何度かコスチュームが変わった。

最初はオーバーサイズの、いわゆる彼シャツ。

次はメイド服。

その次は、キャバ風ドレス…

私は、メイド服の時が一番ウケが良かった。

いつもは塩対応なチャラい店長も

『ユリちゃん、それめっちゃ可愛いじゃん』

と褒めてくれた。

場内指名だったり、後の指名を貰うようになると

『いい感じっすね~明日休みだけど…出勤しちゃいますか?(笑)』

などなど。

《調子いい奴ら。あんなに冷たかったくせに》と

心で思いながら、軽くあしらう。

あの頃は…楽しかったな。

毎日毎日、

『可愛いね、ほんと。』

『旅行行こ?(費用)もちろん出すよ!』

『太ってて可愛いと思えた子初めて(笑)』

これらが “ヤりたいだけ” の言葉だったとしても。

女としては、ちゃんと求められてた。

あー。

今は…女として見られてると感じられない。

今の私は “○ちゃんのママ” “B型作業所の△さん”。

最近男性との関わりは…

三日前、いつもの配達員さんに挨拶したぐらい。

まだ三十代。

《このまま母として、役割として私の人生終えるのか?》

自分の為にやってるはずの、毎日のメイク。

肌や髪のお手入れ。

身なりを整え外に出て、満足なはずなのに…

何かが足りない。

えー。なんでだろ。

今でも可愛いんだけどな。

肌も白くて…柔らかそうで…

ドラミちゃんを全身真っ白にして、

壁にパーンッ!と投げ付けたみたいな感じ。

そして顔は少ーし、年齢感じる。

白髪もキラキラ覗いてる。

全体的に丸々してて、刺さる人には刺さる…はず。

今は自分に自信がないんだけど。

過去の “求められた感” 。

あれを思い出すだけで、ちょっと楽しくなれる。

変だけど…今も、誰かにドキドキされたい。

十年後の私が今の私を見て

《あの時…良かったなぁ》と思ってるかな?

今、この瞬間も。

“当たり前じゃない何か” を、

私は持ってるのかもしれない。

気付けないものなのね、その瞬間は。

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