『~♪…○○のオールナイトニッポン!』
《キャー始まった~!…静かに、静かに…》
毎週火曜日。
私の命綱だった―。
―約、四半世紀前。
私は中学生。
当時、大変悩みが多かった。
見た目のコンプレックスをはじめ、
体質・周囲からの扱い・人間関係…
すべてが最悪だった。
その時期が今までで一番 “白髪” が多かった。
《あーー…○にたい…。このまま……》
毎晩目を閉じるたび、そう願っていた。
いつも通り、夕飯時にテレビを眺めていた。
《明日も学校………。》
ダラダラと唐揚げを口に運んでいた、その時。
…衝撃だった。私の心に光が差した。
あるアーティストに恋をした。
《うわー…カッコよすぎ…!》
さっそく、転がっていたガラケーで名前を検索。
『はよ食べんね!食べ終わってから~…』
母がなんか怒鳴っている。
《うるせーよ》
そう心の中で呟きながら、顔を背ける。
片手にガラケー、片手にお箸。
《最高…わ、25歳なんだ……素敵すぎる…》
なんと、深夜にラジオをやっていることが判明。
高鳴る胸。久しぶりだった。
《こんなにワクワクするの…いつぶりかな…》
そんなことを思いながら、長らく使っていなかったラジカセを押し入れから引っ張りだした。
動作確認は完了。
《明日!明日あるんだ…!はーっ。最高すぎる…》
翌朝は目覚めが良かった。
7:20。
家族4人。
もちろん、誰も起きていない。朝ごはんも無し。
静かに着替え、身支度する。
いつも通り、そーっと家を出る。
《今日の夜中…初めて声が聞ける…!!》
なんとか学校が終わり、一人で帰宅。
「ただいまー」
今日、初めて口を開いた。
テレビ近くに横たわる猫二匹に声をかける。
【…んね~っ…】【なごーっ】
《猫って…にゃーって言わねーよな…》
そんなことを思いながら、しばらく戯れる。
夜まで待ち遠しい。
宿題を済ませ、お風呂を洗い、早めに入浴。
いつもなら23:00には布団に入る。
だが、今日の私は忙しい。
イヤホンに、録音するためのカセットテープ。
兄からセットで500円で売ってもらった。
《っしゃー!ツイてる♪…あー。ワクワクが止まらない。いつぶりだろう…まだサンタさんを待っていた頃のクリスマス以来…》
にやけ顔がバレないように、布団にくるまる。
時計を眺める。とうとうきた…
3、2、1…
『~♪…○○のオールナイトニッポン!』
《キャー始まった~!…静かに、静かに…》
『一週間ぶりのラジオになりますがー…あ、先週わたくし、風邪をひきまして~…』
軽快なトーク。良い意味で裏切られた。
ますますハマる。毎日が楽しい。
彼との出会いで、私の人生はバラ色に変わった。
一週間。
待ち遠しいけど、一週間経てば…
また、あの声が聞ける。
―そんなバラ色の毎日も、時のながれと共に
自然と色褪せていく―。
私は、あっという間に受験生。
勉強に追われ、ラジオの時間に起きていられない。
…いつのまにか、毎週の楽しみとお別れしていた。
《つまらん…あの高鳴る気持ちを、もう一度…》
―― 時は流れ。
いつしか私も子供が産まれた。
慌ただしい日々。いつもの日常。
何気なくテレビをつける。
ガヤガヤうるさい。
《…ん?聞いたことある声…》
ふとテレビに目をやる。
『毎日妻に怒られてばっかで…家なのに全然ゆっくり出来なくて~(笑)』
司会者の声と共に、はしゃぐ彼。
あの、彼。
「…あ……。結婚してたんだ……。」
《…あのとき、本気で恋してたなぁ…芸能人なのに。…ああ、私も…色々あったなぁ………。》
懐かしい気持ちと共に、もう好きでもないはずの
“彼” の結婚に胸を痛めた。
そして、すっかりオジサンになった彼を見て―
なぜか、目頭が熱くなった。
《……救われてたなぁ………。》
あの時の辛くて切ない気持ちと思い出が…
静かに込み上げる。
彼は私の中では、いつまで経っても “戦友”。
会ったことも…ないのにね…。


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